【定番EQ回路】バクサンドール型トーン回路とは?

バクサンドール回路について解説していることを示す画像 技術

今回は上級者向けの内容になります。
皆さんは「バクサンドール」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
これは、Peter Baxandall氏が1952年に発表したトーンコントロール回路で、現在もオーディオ機器などで広く使われています。

エフェクターの世界では、たとえばXoticの製品に採用されていたり、プラグインエフェクトなどでも時々名前を見かけることがあります。

今回は、このバクサンドール型トーン回路について紹介し、その動作原理もざっくりと解説していこうと思います。

バクサンドール型トーン回路とは?

バクサンドール型トーンコントロール回路は、1952年にPeter Baxandall氏によって発表されました。
当時の論文は、以下のリンクから閲覧することができます。
https://www.learnabout-electronics.org/Downloads/NegativeFeedbackTone.pdf

この資料はやや古いため、回路にはオペアンプではなく真空管が使用されています。
また、内容は英語で書かれているため、若干ハードルが高く感じるかもしれませんが、丁寧でわかりやすい説明がされているので、興味のある方はぜひ一度目を通してみることをおすすめします。

回路例

発表当時の回路は真空管を使用していましたが、
ここではそれをオペアンプに置き換えた現代版の回路例を紹介します。

この回路は、

  • 抵抗とコンデンサによるフィルター回路
  • オペアンプによる非反転増幅回路

が組み合わさった構成になっています。

詳しい解説は後ほど行います。

回路の特徴

バクサンドール回路の特徴として、低域(ベース)と高域(トレブル)を独立して、なめらかに調整できる点があります。
この特性により、自然でスムーズな音質調整が可能になっており、
オーディオ機器やギターアンプ、エフェクターなど、さまざまな場面で採用され続けています。

よくあるトーン回路では、

  • ベースをブーストしようとすると、中高域のレベルも一緒に持ち上がってしまう
  • 逆にトレブルをカットしようとすると、中低域まで音が下がってしまう

という場合があります。
これは、トーン調整の回路が単純なフィルター構成になっている場合、
一つの可変抵抗(ポット)が広い周波数帯域にまたがって影響を与えてしてしまうためです。

しかしバクサンドール型の回路では低域と高域を独立して調整することが可能です。

必要な前提知識

必要な前提知識

それでは回路の解説に入る前に、必要な前提知識について説明します。

正確に理解するには、キルヒホッフの法則スター・デルタ変換(Y-Δ変換)といった大学レベルの電気回路の知識が求められますが、ざっくり概要をつかむだけなら、以下の基本知識だけで大丈夫です。

  • コンデンサの性質
  • オペアンプの反転増幅回路

コンデンサの性質

コンデンサには、高い周波数(高音)を通しやすく、低い周波数(低音)を通しにくいという性質があります。

これはコンデンサのインピーダンス(抵抗のようなもの)が周波数に反比例するためです。
つまり、周波数が高いほどコンデンサの抵抗は小さくなり、信号を通しやすくなります。

ざっくりした説明ですが、詳しく知りたい方は別記事でも紹介していますので、ぜひご覧ください。

オペアンプの反転増幅回路

オペアンプを使った反転増幅回路とは、オペアンプの反転入力端子(−端子)に入力した信号を反転(正負を逆転)させて増幅する回路のことです。

この回路では、次のような関係が成り立ちます。

  • フィードバック抵抗(Rf)が大きいほど、
  • 入力抵抗(Rin)が小さいほど、

出力される信号の振幅(大きさ)が大きくなります。

ここで符号がマイナスになっているのは、出力が「反転」することを表しています。

回路の解説

ここからは、回路の具体的な動作について解説していきます。

このトーン回路では、

  • 低域(ベース)をR2
  • 高域(トレブル)をR6

の2つの可変抵抗によってコントロールします。

それぞれの帯域で、どのように信号経路が変化するのかを見ていきましょう。

高域の挙動

高い周波数の信号にとっては、コンデンサのインピーダンスが低くなります。
そのため、高域成分はR2の経路ではなく、C1やC2を経由した経路を主に通ることになります。

高域信号だけに着目して回路を簡略化すると、以下のように見ることができます。

こちら、

  • 青色で囲った部分は、オペアンプの入力抵抗
  • 赤色で囲った部分は、オペアンプのフィードバック抵抗

と解釈することができます。

このとき、R6の可変抵抗の位置を調整することで

  • 入力抵抗を小さくし、フィードバック抵抗を大きくする → 高域の増幅
  • 入力抵抗を大きくし、フィードバック抵抗を小さくする → 高域のカット

といったように、フィードバック比(Rf / Rin)を変化させて、
高域のブースト・カットを行っているというわけです。

スター・デルタ変換(Y-Δ変換)を使用すると更にわかりやすくなります。

まず抵抗R1、R3、R4をΔ-Y変換によって、Ra、Rb、Rcという3つの抵抗に置き換えることができます。
このとき注意すべきポイントとして、変換後のRaは入力と出力を直接結ぶバイパス抵抗になります。Raはオペアンプの反転増幅動作には本質的に関与しないため、今回の増幅率の解析においては無視して構いません

次に、抵抗R6についてですが、これはR5とR7に分けて考えることができます。
これらはそれぞれ、RdReと名付けて整理します。

最終的にRbとRd、RcとReは合成してそれぞれ1つの抵抗にすることが可能です。
この結果、回路全体は、最終的に単純なオペアンプの反転増幅回路と解釈できるようになります。

低域の場合

一方、低い周波数の信号では、コンデンサのインピーダンスが高くなります。
つまり、低域信号はコンデンサを通りにくくなるため、C1やC2を経由するルートはあまり使われず、代わりにR2の経路を通るようになります。

低域成分に注目して回路を簡略化すると、次のように読み替えることができます。

R5〜R7の部分は1本の抵抗Raとして扱えます。これは入力と出力を直接結ぶバイパス抵抗であり、
オペアンプの増幅回路とは関係ないため、今回の増幅率の話では無視して構いません

この場合も、

  • 青色の領域が入力抵抗
  • 赤色の領域がフィードバック抵抗

として見ることができ、R2の位置(つまみの回し具合)によって、フィードバック比を変化させて低域を持ち上げたり下げたりすることが可能になります。

このように、バクサンドール回路では、高域と低域で信号が通る経路が自然に分かれ、それぞれの可変抵抗で独立して帯域をコントロールすることができます。

これは、単純なCRフィルタなどと違い、回路全体の周波数応答をなめらかに保ったまま、自然な音質変化を実現できる大きなポイントです。

こちらもスター・デルタ変換(Y-Δ変換)を使用すると更にわかりやすく整理することができます。
具体的には、抵抗R2をR1とR3に分割し、Y形に並んだR1、R3、R4をY-Δ変換することで、Ra、Rb、RcというΔ形の抵抗に置き換えることができます。

このとき、変換によって得られるRaおよびRbは、入力と出力を直接つなぐバイパス経路上にあるため、オペアンプの反転増幅動作には関与せず、増幅率の解析においては無視して構いません
その結果、回路全体は、入力抵抗とフィードバック抵抗のみが残った単純な反転増幅回路として解釈できるようになります。

回路例

最後に、実際の回路例を見てみましょう。
以下は、XoticのRC BoosterやBB Preampを参考にした回路です。

この回路はLTspiceで作成しており、2つの抵抗で1つの可変抵抗(ポット)を表現しています。
一部、C3、C4、R6周辺の構成がこれまで紹介した回路と異なりますが、基本的な動作原理は同じです。

LTspiceの回路ファイルも下記に掲載していますので、ぜひご活用ください。

まとめ

バクサンドール型のトーン回路の特徴と仕組みを整理しました。
低域と高域を独立して調整できるのが大きな特徴となります。

高域の場合と低域の場合に分けて考えることでシンプルな反転増幅回路として捉えることができ、動作原理の理解がより直感的になります。

バクサンドール、どんなエフェクターに使われているかぜひ探してみてください。

この記事を書いた人
藤原 健司

電子楽器の製作、エフェクターの修理、ペダルボードの構築などを行っています。
大手音響機器メーカー勤務を経て独立。
現在はITエンジニアとして、システム開発の事業も手がけています。

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